セザール・ビロトー―ある香水商の隆盛と凋落
セザール・ビロトー―ある香水商の隆盛と凋落
ある、ある!!
題名は主人公の名、副題はもろに筋である。目次も然り。
主人公の実直な商人は、およそお上の都合で突然叙勲されることになる。そこで有頂天になった彼の「隆盛と凋落」が始まるのだが、これだけネタを割ってなお面白く読ませる登場人物の存在感は圧倒的だ。
主人公と周囲の人々の飾らないが緻密な描写には、もう”ある、ある!”の連発である。「絶頂期」の主人公は「貧乏に負けない幸福なんてない」などと身も蓋もないことを言っているが、「凋落」が始まるや、妻に「あなた、勇気を出して。必要なら私が二人分出してあげますわ」と励まされている。
ちょい役の凡人たちもいい味付けだ。例えば、主人公の家の家主に「彼の心の中で家賃の部’位’にはたこができて固くなっていた」とズバリの比喩。見た目にも貧相なダミー銀行家に「テーブルにある物をみんな喰いちらかすんじゃないぞ」と黒幕がダメ押しの説教。
実は、この作家は主人公に命綱がついていることも予告する。スローなジェットコースターは、古今大差ない庶民パワーと予告の相乗効果で、迫力と安定感を兼ね備えているのだろう。
さて、土地投機や育毛剤などの話題が身近だから、本書が古典であることを忘れそうだが、一般の古典同様、R指定的表現は皆無なので、お子様からお年寄りまでお楽しみ頂ける。また、普段、難解な作品に嵌っている方も、時には気さくな物語で眉間の皺を伸ばしてみてはいかがだろう。